筑波大学 生命環境系 細胞生物学
沼田治 教授
http://www.biol.tsukuba.ac.jp/organelle/numata.html
~ミトコンドリア活性因子(MAF)が筋肉に働く~
サルコペニアとは、加齢に伴って筋力量や機能が低下する現象のことで、介護状態を誘発する大きな要因となっています。同大では、紅茶やウーロン茶などの発酵茶から分離抽出した高分子ポリフェノールがミトコンドリア活性因子(MAF)作用を持ち、また運動と組み合わせると筋肉の遅筋化および肥大化につながることを発見しました。この成果を活用し、サルコペニアの予防と改善に役立つ天然由来サプリメントの開発に全力を注いでいます。
MAFはカテキン類が酸化重合した分子量9000~18000の高分子ポリフェノールで、骨格筋培養細胞をMAFで処理した実験でミトコンドリアの活性化が認められ、遅筋化の変動主要因が増加しました。また、マウスのトレッドミル試験においても、MAFがミトコンドリアを活性化し、筋の遅筋化を促すことが認められました。さらにMAFを25%含む抽出物は、筋萎縮遺伝子の1つ「ミオスタチン」の発現量を抑制し、マウスの実験で運動と組み合わせることにより筋肥大を促すことも分かりました。
天然由来サプリの製品化を目指す
従来のサルコペニア予防対策は、やや負荷のある運動(レジスタンス運動)や栄養管理、アミノ酸のサプリメント摂取でした。ミトコンドリア活性因子を使った本サプリメントは、運動と組み合わせることにより、これらアミノ酸等よりも筋肉量の増加や機能改善に期待が持てると考えています。
現在は動物実験の段階ですが、発酵茶からの抽出物であるため、毒性試験や臨床研究におけるハードルは低いと考えています(安全性試験は実施済み)。特定保健用食品や機能性表示食品として、サルコペニア予防・改善サプリメントの製品化を目指し、高齢者のQOL(Quality of Life)改善に貢献したいです。将来的には広い世代に向けて、有酸素運動を助け、筋肉の遅筋化を補うサプリメントとしてマーケットの拡大を目指しています。
特許・主な論文
■Fujihara, T., Nakagawa-Izumi, A., Ozawa, T., and Numata, O. High-molecular-weight polyphenols from oolong tea and black tea: purification, some properties, and role in increasing mitochondrial membrane potential, Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 71, 711-719, 2007.
■ Eguchi, T., Kumagai, C., Fujihara, T., Takemasa, T., Ozawa, T., and Numata, O. Black Tea High-Molecular-Weight Polyphenol Stimulates Exercise Training-Induced Improvement of Endurance Capacity in Mouse via the Link between AMPK and GLUT4.
PLoS ONE 8(7): e69480, 2013. doi:10.1371/journal.pone.0069480
■特許第5439644号 ウーロン茶又は紅茶から抽出された血糖値上昇抑制剤及びミトコンドリア膜電位上昇剤