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「いろいろな人の活動を下で支えるサイバー空間、新しい世界を作りたい」 ソフトイーサ株式会社 代表取締役 登大遊


筑波大学発ベンチャー「ソフトイーサ株式会社」代表取締役であり、現在は独立行政法人情報処理推進機構(IPA)産業サイバーセキュリティセンター サイバー技術研究室長も務められている登大遊さんにIPAサイバー技術研究室でお話を伺ってきました。

ソフトイーサ株式会社は現在どのような状況ですか?

筑波大学の2年生だった2004年に4人で設立したソフトイーサ株式会社は、現在10人(技術者6人、事務3人、監査役1名)で年間約2億円を売り上げる会社になりました。

ソフトイーサを設立するきっかけとなったSoftEther VPN(Virtual Private Network)を、2014年にオープンソースにし、今では全世界で340万ユーザーが利用する日本有数の大規模なソフトウェアになりました。保守は有料で、国内6600社が利用しています。代理店は50社でアマゾンでも販売しています。

SoftEther VPN開発のきっかけは?

 ソフトイーサで扱っているSoftEther VPNは、筑波大学に入学した直後の2003年にIPA未踏ソフトウェア創造事業 (現: 未踏IT人材発掘・育成事業) で半年かけて開発したものです。IPA未踏ソフトウェア創造事業への応募は、とある先生からの勧めだったのですが、VPNソフトを開発したいと思ったきっかけは二つあります。

一つ目は、大学内の無線LANから自由にインターネットにアクセスできる環境が欲しかったこと。私が筑波大学に入学した当時、大学内の無線LANは任意の通信を認めておらず、一部の学生の間で大変人気のあったP2PソフトウェアのWinnyなどは使えませんでした。当時は、モバイル通信の費用が1MBあたり100円と高額だったこともあり、学内無線LANから自由にインターネットにアクセスできる環境が欲しかったことがSoftEther VPN開発をすることになったきっかけです。

二つ目は、 今だから言えますが、学生成績管理システムTWINS (2003年当時のバージョン) のセキュリティに興味をもったこと。ある科目の単位を落としそうだった私は、TWINSの成績は技術的に書き変えられるかどうかに興味を持ったわけです(笑)。当時のTWINSは各エリアにある事務室と本部にあるサーバーとでSQL通信によって成績情報のやりとりをしていました。そこへ入り込むにはVPNを知らないといけない。そこからVPNやSQLの勉強を始め、ついに任意の成績データをメモリ上で書き変えることができてしまいました。もちろん、SQLのトランザクション機能を使って元に戻したので、成績を実際に書き変えたりはしませんでしたが、その代わりに、この事実をTWINSの運営をされていた教員に伝えました。こんなことができるのは登さんだけだからこの問題があるバージョンが使われている間は黙っているようにと言われ終わりました。(当時の法律では適法であった。) 成績の書き換えはしなかったので、単位は落とし、翌年再履修して合格しました。その後、TWINSはバージョンアップが行われ、今では成績を書き変えたりなどできませんので、悪しからず(笑)。このTWINSの件で、短期間でVPNやSQLについて勉強でき、詳しくなることができましたが、このように、大学には、学生が色々なことに興味を持って熱心に学べる対象物が色々と置いてあることが重要だと思います。

IPA未踏プロジェクトは、開発したソフトウェアを広く頒布することが条件でしたので、開発が完了した2003年12月にSoftEther VPNの無料配布を開始しました。当時、既存のVPNソフトの多くは有料または使い方が難しかったこともあり、無料のSoftEther VPNはすぐに1万人もの人が利用してくれるようになりました。

無料配布開始後、IPA未踏プロジェクトのプロジェクト管理を担っていた企業が販売したいと言ってくれ、契約を結ぶことになりました。この時、私は19歳の未成年。何をするにも親権者の同意が必要で、実家に書類を送り、送り返してもらうことの繰り返しで、とても面倒でした。この面倒な手間を省くには、会社を作ればいいと言われ、それで設立したのがソフトイーサ株式会社です。

ちなみに、無料配布を開始しユーザーが増えた頃、「ファイアウォールを経由してVPN通信ができることはけしからん」という意見が寄せられ、経産省から配布停止要請が出されたこともありました。停止要請まで出されたのに、2007年にはSoftEther VPNの開発と普及により経産大臣表彰をいただきましたが(笑)

SoftEther VPNはオープンソースということですが、どうしてオープンソースに?

オープンソースにすることで、早く大規模なソフトウェアになり、開発者がいなくなったとしてもソフトウェアは成長し続けることができるからです。

オープンソースにすると弱点をさらすことになるのでは?とか、せっかくの収入源なのに・・・と言われることもあります。SoftEther VPNはC言語で書いているので、間違いがあると攻撃されるということは確かにあります。でも、オープンソースにすることで、世界中の人が書き込むことができるようになり、早く大規模なソフトウェアにすることができるんです。ソフトウェアは行数で規模を判断するのですが、SoftEther VPNは、現在45万行あり、ユーザー数からみても日本有数の大規模なソフトウェアです。プログラマー1人が1ヶ月に書くプログラムは平均3000行と言われていますので、いかに大規模なものかお分かりいただけるでしょう。

また、無料であることで個人が気軽に使い始めることができ、利用した個人がこれは良いソフトウェアだと支持してくれ、支持してくれる人が増えれば、会社でも利用できないかと思うようになる。そのような方には、保守付きの有料版の法人向けもありますよということを案内して、会社で利用してもらえる仕組みになっています。

サイバー世界では、支持が増えるということが重要。ソースコードが主体にならないと支持はつかない。オープンソースにすることで支持が増え、ソフトウェアの規模は大きくなり、セキュリティチェックをしてくれる機関もあるのでバグが見つかれば修正を加え、こうやってソフトウェアは成長し続ける。オープンソースにすることで、最初にコードを創造した神(開発者)は死んでも製品は成長し続けるんです。

SoftEther VPNをオープンソースにすることで結果的にソフトイーサが儲かる。
儲けたお金で今後は何を?

SoftEther VPNをオープンソースにすることは結果的にソフトイーサの儲けにつながっているのですが、私は お金儲けがしたいわけではありません。儲けたお金を使って、サイバー空間を拡張し、いろいろな人々の活動がやりやすい新しい空間を作りたい。サイバー空間を広げることで世界を作り変えたいのです。

他の人達がやっているように稼いだお金で物理的空間の上に物理的なものを建てるのではなく、いろいろな人の活動を下で支えるサイバー空間、新しい世界を作りたい。

物理空間の上で実現できることは有限だと思いますが、サイバー空間はほぼ無限。サイバー空間は生産性の向上、変化の量も無限。さらにサイバー空間のルールは書き変えることができます。ルールを書き変えることで、人間の歴史の発展速度さえも変えることになるかもしれません。延いては、世界を作り変えることにもなり得る。

そんなサイバー空間の拡張が、私の一番の仕事だと考えています。サイバー世界にコントリビュートすると、数千年、はたまた数億年先までコントリビュートした部分を役立たせることもできるのですから。

ところで、どうしてIPAで働くことになったのですか?

IPAとの付き合いは、2003年にIPAが実施している未踏ソフトウェア創造事業でSoftEther VPNを開発し、天才プログラマー/スーパークリエータ認定を受けたことが始まりです。その後、2016年に経産省のタスクフォースに参加する機会があり、そこで議論を重ねた結果、ここIPAで働くことになりました。

私は理系の研究者で、特に大学院などで深夜まで熱狂的に研究をすることが多く、同様の学生も大学に集まっておりますが、このような熱狂的に仕事をする人たちの文系バージョンはどこにいるのだろう?と思うことがありました。経産省のタスクフォースに参加し経産省の方々に出会い、これらの若い方々が深夜まで仕事をされているのをみると、文系バージョンは霞が関にいた!と知りました。これは素晴らしい、一緒に仕事をしたいと思ったことが、IPAで働くことにつながりました。

IPAではどんな仕事を?

IPAでは、産業サイバーセキュリティセンターのサイバー技術研究室長をしています。

産業サイバーセキュリティセンターは、2017年4月に運営が開始された組織で、サイバーセキュリティに関する人材育成、制御システムの安全性・信頼性検証、攻撃情報の調査・分析の3つの事業を行っています。サイバー技術研究室では、攻撃情報の調査・分析を通して、サイバー技術に関する研究開発や人材育成の支援などを行っています。

サイバー技術研究室の最も重要な仕事は、ホワイトハッカーのコミュニティを作ること。日本のサイバー技術者は、質、量ともに他国に引けを取りません。しかし、企業などに分散、点在していて、政府、サイバー技術者、民間企業が対等な立場で結びつく仕組みが存在していません。米国ではこの3者が結びつくことでインターネットが開発され、イスラエルではセキュリティ製品が作られ世界で利用されています。日本にもそういった仕組みが必要であり、それを作ることができるのがIPAだと思っています。

最後に令和時代を生きる学生へメッセージを

人生はトレードオフの問題だと思っています。

特殊であることと幸福度のトレードオフ。学生が起業するというのは特殊なことであり、特殊だからこうした取材があるのですけど(笑)、その特殊さ故、物事を複雑に考えてしまい、分析して理解しようとしてしまいます。例えば、買い物をするとき、店員にお金を渡すのと、店員から物を受け取るのは完全に同時でなければ・・・などということを考え始めてしまい、日常生活に影響がでたりもします。完全に職業病です。

ですが、日常生活はサイバー空間における仕事にも影響していて、この職業病の影響が薄くなり不確かなものを作り出したら、サイバー空間での仕事の質が下がってしまいます。だから、特殊であることを追求し、他のことは切り捨てる。トレードオフというわけです。

もちろん、トレードオフつまり一方を取り一方を捨てるのではなく、良いとこ取り、すべて手にするにはどうする?と考えるのもありかもしれません。いずれにしても、これからの時代を生きるみなさんには、他人の言葉に惑わされず、自分で決めることを大事にしてほしいです。

余談ですが・・・どうしてアヒルが?

筑波大学には、T-ACTという「あなたの「やってみたい」を応援するプロジェクト」があります。このT-ACTで、学内の池に博士号と名付けたアヒルボートを正しく浮かべるプロジェクトを「やってみた」のですが、アヒルボートは転覆しません。転覆しない、だからアヒルがお守りなんです(笑)

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